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Maysville メイズビル

アメリカ映画 (2021)

2021年12月にネット上で公開された典型的なアメリカ映画。時代は、1929年と1933年。最初の30分が、当時14歳のホールデン・ゴイエット(Holden Goyette)が演じる少年時代のテディ。そして、後半の1時間が、その4年後の青年になったテディの物語。場所は、共にケンタッキー州だが、最初が田舎、後が小さな町。両方の場目に出て来るのは、テディの母と、如何にもアメリカらしい、とんでもない悪人バック。少年時代だけなのが、テディの不可分の友人ウィリー。誰からも相手にされないアル中で暴力的・専横的なバックの息子。青年時代に登場するのは、映画の題名になっている小さな町メイズビルの町長と金持ちの男性2人と、後者の娘で若くて美しいエリザベス。映画を4つのパートに分けるとすれば、テディとウィリーの少年らしい悪戯生活、ウィリーの事故死後にテディに課せられた地獄のような拉致監禁生活、焼き殺されそうになり、メイズビルまで逃げて来たテディがヒーローとして評価され、エリザベスと蜜月関係になる成功とロマンスの数ヶ月、バックの再登場による破綻と、それに対する復讐という「軟硬軟硬」と変化する、ある意味、新鮮かつ劇的で目の離せない構成。

テディとウィリーは無二の親友。テディの父はそれに反対だが、テディは近くに男の子が誰もいないこともあって、血盟の友となる。そんなウィリーに、テディの母は、わが子のように接する。しかし、ある日、ウィリーとテディが、近くの牧場でエンジンを掛けっ放しにしたトラクターを見たことで運命が激変する。トラクターの運転をしたことのないテディを運転席に座らせ、運転の仕方を教えるウィリー。しかし、停め方は教えなかった。そして、動き出したトラクターの前で転倒したウィリーは轢死する。テディの父バックは、事故死にもかかわらず、テディを一方的に責め、ウィリーの代わりに家に来て尽すか、さもないと殺す。両方とも叶わなかった場合は、テディの双子の妹か、母を代わりに拉致すると脅す。あり得ない暴言だが、誰も守ってくれる人のいない田舎なので、従うしかない。こうして、奴隷としての4年間が過ぎる。ある日、ウィリーが残していった “形見” が発端になり、バックがテディを折檻しようとするが、青年になってアル中のバックより強くなったテディは逆にやっつける。それに怒ったバックは、テディが4年間暮らしてきた納屋に火を放って焼き殺そうとするが、テディは壁を破って逃げ出し、メイズビルの町に逃げる。そこで、たまたま、町長の工場でランチタイムの誰もいない時に発生した子供の事故をテディが救ったことで、一躍ヒーローになり、町長は彼を工場で雇うことにする〔世界恐慌の最後の年〕。テディは、その救命に一役買ったエリザベスという同年配の女性と親しくなり、工場製品の配達の仕事も誠意を尽くして町長に気に入られる。そして、最後には、エリザベスの婚約パーティが、町長主催で開かれる。そこに姿を見せたのが、バック。彼は、テディのことを殺人者と罵り、それを聞いたエリザベスは動揺してパーティ会場を逃げ出し、テディは後を追う。一方、会場にいたエリザベスの父は、4年前の事故の時、牧場にいた祖父から詳しい話を聞いていたので、バックの言葉に反駁し、それを聞いた町長は、町から追放する。それでも懲りないバックは、テディをもう一度奴隷化しようと銃で迫るが、今度は、母が代りになると申し出る。そして、テディがその場を離れた直後に銃声が響き渡る。

13歳のテディを演じるのは、ホールデン・ゴイエット(Holden Goyette)。2005年8月15日生まれ。2021年3月17日の記事に、「メイズビルの撮影を開始してから18か月が経った」と書かれているので、撮影開始は2019年9月17日。ということは、ホールデンは14歳になったばかりということになる。映画初出演ではないが、これまでのほとんどはショートムービーがほとんどなので、30分といえども主役を務めるのは今回が初めて。観ていて首をひねりたくなるのは、ウィリー役のフォレスト・キャンベル(Forrest Campbell)が2007年生まれでホールデンより年下なのに、年上に見えること。映画の最後に2人は兄弟、もしくは、異父兄弟だと分かるが、前者ならテディが先に生まれ、後者ならウィリーが先に生まれていないといけない。実際の年齢と、見た目が逆転しているので、どちらが正しいのか全く分からない。

あらすじ

地面に穴が掘られ、次いで、喪服姿のテディが映る。母が髪にブラシを入れる。このタイミングで、大人になったテディの声で、ナレーションが入る。「アパラチア山脈の奥深く、ここの人々は、常識的な規則など守らない〔play by their own rules〕。外に出ない秘密もある。1929年の夏、私は13歳になった。喪失、恐怖の夏で、新しい章の始まりでもあった。私は、鉄道事故で父を亡くし、まだ子供だが、家で唯一人の男になった」。母、テディ、双子の妹の4人が手をつないで墓地に向かう。ここで、いきなり、上半身裸の2人の少年が映る。テディとウィリーだ。「私の一番の友ウィリー・スタンパーは、アダムズ・リッジに住んでいた。彼のパパは私を嫌っていたが、理由は知る由もなかった。私とウィリーが生まれて以来、そこには何らかの確執があった」。2人は湖に飛び込む。そして、テディがウィリーに洗礼を施す(2枚目の写真)。場面はさらに変わり、テディの家に変わる。「しかし、ママはいつもウィリーを家に喜んで入らせた。すべてが変わってしまった日まで、僕とウィリーは固く結びついていた」。そして、場面は最初に戻り、4人が向かった先では、掘られた穴の前に棺が置かれ、10数人の人がそれを取り囲んでいる(3枚目の写真)。そして、タイトルが表示される。メイズビルはケンタッキー州境にある小さな町で、州で2番目に大きいレキシントンの北東約90キロにある。。

一面の草原の中でテディとウィリーが 戦争ごっこで遊んでいる。ウィリーが、手榴弾に見立てた石を投げ、撃たれて死んだ振りをして草の上に倒れる。テディは、「ウィリー、君はいつだって最初に死ぬんだから」と言い、付き合いきれぬとばかりに立ち去る。「僕は 泳ぎに行く」。ウィリーは、バカな真似を止めてテディの後を追い、湖に向かって草原を走る(1枚目の写真)。湖の水は冷たくて、2人は早々に水から上がる。ウィリーは、「急がないと〔pick up the pace〕、遅れちゃう」と言う。それを聞いたテディは、「なぜ、彼、いつもそんなに怒るの?」と訊く。「誰が?」。「君のパパ」(2枚目の写真)。「バックがか? さあな。酔っ払ってるからだろ。最初は戦争、それからママが出てった。君は パパがいなくてラッキーだ」。それを聞いたテディは、「取り消せ〔Take it back〕!」と怒る〔テディは父が好きだった〕。鈍感なウィリーが「何?」と訊くと、テディは、「今すぐ取り消せって言ったんだ!」と怒鳴る。「僕はただ、君を殴るようなパパがいなくてラッキーだと言おうとしたんだ。どんなパパでも、いないよりはマシだ」。「僕のパパは、“地の塩”のような人〔とても善良な人(聖書から)〕だった」。その時、ウィリーは地面に落ちていた25セント貨を見つけて大喜び〔2021年の4ドル〕。テディは、「見せて」と言って、手に取る(3枚目の写真、矢印)。「本物だね」。「これ、“逃走ビン” 行きなんだ」。「それ何?」。「ポーチの下に隠したビンだ。見つけたコインが一杯入ってる。いつか、ここから逃げ出す時に使うんだ」。

それを聞いたテディは、「ウィリー、僕を1人にしないで。君は僕の一番の友だ。君なしで、僕はどうすりゃいい?」と心配する(1枚目の写真)。ウィリーは、いい考えがあると言い、ナイフを取り出すと自分の手のひらを切る(2枚目の写真、矢印)。そして、テディに手を出すよう求める。そして、テディが嫌がると、もう自分は切ったんだから、今さら取り消せないと言い、無理矢理テディの手を切り、傷口を合わせ、「これで、僕らは血盟の友だ。誰も、僕らをバラバラにはできない」と言う。テディは、「痛いよ。ママはこんなの好きじゃない」と、“血の誓い” に否定的(3枚目の写真)。「ママは、夫と赤ちゃんを亡くした。だから、僕を大目に見てくれるだろう」〔重要な情報〕

そのあと、2人はウィリーの家に行く。ウィリーが最初にしたことは、ポーチの下に隠しておいたガラスのビンを取り出すこと。「それなの?」。「そう。これが “逃走ビン” さ」。ウィリーは そう言うと、さっき拾った25セント貨を中に入れる。「なんで泥だらけなの?」。「全部泥じゃない。万一バックが見つけても、それなら、干からびた大ミミズのビンだと思うだろ」。「お金を入れる度に水で濡らすの?」(1枚目の写真)。「そうさ。彼が寝てる時、たまにポケットからコインを頂戴するんだ」(2枚目の写真、矢印はビン)「ぜんぜん気付いてない。僕は、ダイム〔10セント貨〕が一番好きなんだ。それなら、数枚なくなっても分からないだろ」。「どのくらいあると思う?」。「分かんないけど、もうすぐ逃げられる」。テディは、「ウチで晩御飯食べてく?」と訊く。テディの家では、母が、オイルランプの光の元で、ウィリーの手の傷を消毒している(3枚目の写真)。消毒が終わると、テディが、「ホタルを捕りに行かないか?」と訊くので、夕食はもう済んだのであろう。

夜も暗くなってウィリーが家に戻って来る。ウィリーが部屋に入ると、待ち構えていたかのように、父が電気照明を点ける。そして、「どこにいたんだ、坊主?」と訊く(1枚目の写真)〔この男は、決して名前で呼ばない〕。「テディと一緒にホタルを捕まえてた」。「あのロクデナシのガキと一緒だっただと? しかも、スモールウッドの土地にまた行ったのか?」。「行ってません」。父は、いきなりウィリーの頬を引っ叩き、ウィリーは床に崩れるように座り込む。「嘘を付くんじゃない。聞いてるか?」。「はい」(2枚目の写真)。「片付けてから寝ろ」〔これでは、ウィリーが逃げたくなるのもよく分かる〕

ここで、いきなり機関車が映り、デニムの作業衣を着た若い男性が手を振っている(1枚目の写真)。そのすぐ後に、プラットホームの端で手を振っているテディと その母が映る(2枚目の写真)。機関車が動き出し、連結器がつながったショックで若い男性が落下し、プラットホームのテディが「パパ!」と叫び、現実のテディが夢から覚めて飛び起きる(3枚目の写真)。冒頭のナレーションで 「私は、鉄道事故で父を亡くし」と言っていた部分が、この夢で再現されたことになる。

その日、ウィリーの家の庭で。リンゴの木に入って行ったウィリーに、テディは、「パパに殴られたの?」と訊く(1枚目の写真)。ウィリーは芝に落ちていたリンゴを拾うと、リンゴの木から吊るしたタイヤにぶら下がり、「いたずらしてやった〔I got him good〕。酒におしっこ入れたんだ。酔ってたから気付かなかった」と、ニヤニヤする。そして、テディに拾ったリンゴを投げて寄こす(2枚目の写真、矢印は青りんご)。「朝食だ」。「ううん、要らない。下痢しちゃうよ。君も注意しないと」。ウィリーは もう1個拾うと、「僕は平気。鋼のお腹!」と言って食べる。テディは、「今日は、何しようか?」と訊く(3枚目の写真)。「いい考えがある。きっと楽しいぞ」。

ウィリーは家に入って行くと、酔っ払って寝ている父の脇テーブルの上に置いてあった銃をこっそり取ると(1枚目の写真、矢印)、タイヤに乗って待っているテディの元に走って行く。テディは、「僕らが銃で遊んでるのが見つかったら、バックに殺されちゃう」と心配するが、ウィリーは 「怖がり屋〔scaredy cat〕になるな。来いよ」と 問題にもしない。テディは仕方なくウィリーの後を追う。最初に撃たせてもらったのはテディ。撃った途端に衝撃で倒れただけ。ウィリーは、それまで何度も練習したことがあるのか、2発目で標的の缶を吹き飛ばす。次に、もう一度テディがトライしようとすると、カチッといっただけで弾が出ない(2枚目の写真)。ウィリーは、銃を持って来ただけなので、これで銃遊びは終わり。ウィリーは、「どのくらい向う見ずになれる?」と訊く。テディは、「心配した方がいいの?」と笑顔で答える(3枚目の写真)。

そして、2人が無断侵入していったのは、先に出て来た “スモールウッドの土地”。映画の後半で登場するスモールウッド氏の牧場だ。柵を越えた2人が目にしたものは、農業用のトラクター。そして、トラクターを運転した老人〔スモールウッド氏の父〕が、エンジンを掛けたままトラクターを離れる。それを見たウィリーは、乗ってやろうと、慎重派のテディの反対を押し切って トラクター目がけて走り始める(1枚目の写真)。そして、トラクターまで来ると、テディに、「上がれよ」と、運転席に座らせる。そして、動かし方を教える(2枚目の写真)。「まず、ブレーキを解除。それから、スロットルを少し引く」。「これ?」。「そうだ」。「さて、次が難しいんだが、ニュートラルから動かして、ギアに入れる」。こんな程度の簡単な教え方でもトラクターは何とか動き出す。初めて運転したテディは興奮して大喜び(3枚目の写真)。ウィリーは、テディの方を見ながら、後ろ向きに歩いて行く。しかし、何もないはずの牧草地に丸太が1本落ちていて、後ろ向きに歩いていたウィリーは、それにつまづいて転倒する(4枚目の写真)。いきなり姿を消したウィリーにテディは慌て、「ウィリー!」と何度も叫ぶが、トラクターの止め方が分からない。そして、画面は真っ黒に。

そして、映画の冒頭にあった埋葬の場面(1枚目の写真)。牧師は、「皆さん、この儀式は私にとって最も辛いものです。どの親でも、おのが子供にさようならを言うのは、正しいことではありません。でも、イエスは言われました。『子どもたちを許してやりなさい。邪魔をしないでわたしのところに来させなさい』」と〔マタイの福音書19章14〕」。説話はまだ続くが、それを聞いてテディは涙に暮れる(2枚目の写真)。ところが、そこに、別の声が割り込む。「もう十分だ。開けろ」。言ったのは、もちろん、バック。牧師は、「スタンパーさん、それはいい考えとは思えません。子供さんは惨い姿をしています」と止める。バックは、「俺は、あんたに訊いた覚えはない。だから、俺がその棺を蹴り開ける前に 開けてもらえないかね」(3枚目の写真)。棺の蓋を開ける、体は黒服で覆われているが、右手はなくなっており、顔には傷がある。参列者が目を背ける中、バックは、テディに向かって、「彼を見ろ!」と強いる。そして、耐えられなくなったテディが逃げ出すと、「お前は、俺の坊主を殺した!!」と叫ぶ。

そして、その夜、テディが好きな絵を描いていると、車がやってくる音が聞こえる。カーテンを開けて窓を覗いたテディは、「ママ、バックだよ。銃を持ってる」と慄くように言う(1枚目の写真)。母は、テディに双子の妹を子供部屋に連れて行くよう命じ、1人で玄関から出て行く。猟銃を持って車から降りて来たバックに、母は、「いかがされました?」と尋ねる。「坊主をここに連れて来い」(2枚目の写真)。「スタンパーさん、あなたは飲み過ぎだと思います」。「何も言うんじゃない、女。俺は、今すぐ、坊主をここに連れて来いと言ったんだ」。「そんなことはしません。すぐに私の家から出て行きなさい」。そう言って、玄関から入ろうとすると、バックは撃鉄を起こし、「あんたには2つの選択がある。あの坊主をここに呼んで俺が撃ち殺すか、俺に坊主を渡すかだ。それしか途はない。目には目をだ。あんたの坊主は俺のを殺した。だから、今度はあんたのを殺す」。「私の子は渡しません」。「なら、殺す。それがあんたの選択だ」。「させないわ。ウィリーに起きたことは悲劇たけど、事故だったのよ。あなたの悲しみは分かるけど、テディはウィリーが大好きだったわ。私も彼を愛してた〔深い意味のある言葉〕。嘆いているのは、あなただけじゃないのよ。だから、家に帰って寝てらっしゃい」。「俺に説教するな。あの坊主は、生死によらず俺と一緒に来るんだ。あんたたち全員をぶっ殺されたいなら、それで構わん。弾はたっぷりある」。すると、玄関のドアが開き、テディが外に出て来ると、「分かった。ママ、僕 行くよ」と言う(3枚目の写真)。「他の誰も傷付けたくない」。母は戻るように言うが、バックはテディを捕まえる。母との間で奪い合いになるが、力が足りずに手を放した母を、バックは足で蹴り、テディを無理矢理車に押し込む。そして、猟銃を母に向けると、「もう、こいつは俺の坊主だ。さよなら言うんだな。二度とここには戻らん」と宣告する。そして、悲嘆にくれる母を残して、車でテディを拉致していく(4枚目の写真)。

バックに家に連れて来られたテディは、車から引きずり下ろされると(1枚目の写真)、家ではなく、納屋に放り込まれ、床に投げ出され(2枚目の写真)、「新しい家にようこそ、坊主。俺の考えでは〔Way I see it〕、俺の坊主はこれからは地面で寝るべきだ。だから、お前は、そこで寝ろ」と 無茶なことを言うと、さっささと納屋を出て行く。テディに残された途は、そこで泣くしかない(3枚目に写真)〔この場面の3枚の写真は何れも増感処理〕

翌朝、バックは納屋の鍵を開ける(1枚目の写真)。そして、中に入ると、地面に寝ているテディに向かって、「起きろ」と命じる。テディがのろのろしていると、「起きろと言ったんだ、坊主。ここで、怠け者になることは許さん。仕事がある。鶏小屋へ行って卵を取って来い。それができんほど無知じゃないよな」と言う(2枚目の写真)。「はい」。それでもテディが動かないでいると、「どうした? 頭が変になったのか? それともベルトで叩かんといかのか?」と脅す。「おしっこしないと」。「森でやって来い」。テディは鶏小屋から持って来た卵を使って目玉焼きを作り、焼いたパンの横に入れる(3枚目の写真)。そして、コーヒーをカップに入れて料理と一緒にバックの前に持って行くと、バックは、パンに黄身を付けて食べながらコーヒーを床に空け、代わりに酒をカップに入れる〔朝から、酔っ払っている〕

テディの母は、朝、すぐに保安官の事務所に行く〔この建物だけロケ地が判明したが、何と、西海岸のワシントン州にあるチェホールズ(Chehalis)の町にある旧ルイス郡裁判所。映画の舞台となっているケンタッキー州のメイズビルからは3300キロも離れている〕。しかし、いたのは保安官助手。母は、「息子が拉致されました」と訴えるが(1枚目の写真)、拉致したのがバック・スタンパーだと知ると、自分には何もできないから、明日保安官が戻ってきたら対処するの一点張り。そして、母が最後に、「息子が大丈夫だと強く祈って下さい」と頼むと、「ああ、祈りますよ。でも、あなたも祈るべきでしょ。結局、息子さんは、彼の息子を殺したんですから」と、事情も知らずに失敬なことを言い(2枚目の写真)、母は、部屋に入って行った愚かな保安官助手に向かって、ドアの外から、「ふ抜け!!」と怒鳴る(3枚目の写真)。

同じ頃、バックは、テディにベランダに置いたイスに座るよう命じる。テディが座ると、「その長い髪で、農場を歩き回るんじゃない。汚い。俺の家にシラミを持ち込むことは許さん」と理由を説明すると、「じっとしてろ」と言い(1枚目の写真)、カミソリで全体に、特に側頭部を短くする。その夜、テディが納屋にいると、バックが入って来て、「何か食べた方がいい」と言って袋を投げて寄こし、さらに、「梱(こり)の1つからベッドを作れる。馬から、毛布を調達しろ」と、納屋での暮らし方を教えて出て行く。テディは、パンを少し食べると(2枚目の写真)、耐えられなくなり、納屋の扉と反対側の壁に付けられた非常用の小さな扉の木の止めを外し、通れないようにしている斜めの木材の下をくぐって外に出る(3枚目の写真)。

バックは、逃亡を警戒してたのか、テディにすぐに気付いて後を追う。スピードで遅い上につまづいて転んだので、バックに足をつかまれ、「逃げられると思ったのか?! お前は俺のものだ。来い!!」と怒鳴る。そして、二度としないように、革ベルトで何度も叩く。「やめてよ! なぜこんなことするの?!」。「俺の坊主を殺したからだ!」(2枚目の写真)。「いいか、二度と逃げようとするな。もしやったら、お前の妹の1人を代わりにする。そいつが逃げたら、次は お前のママだ」。そして、嫌がるテディを納屋まで力任せに連れて来ると、中に投げ込み、「俺には、立派な坊主がいた。今度は、お前を手に入れた。情けない奴を。お前はウィリーの半分にもならん」と罵ると、納屋から出て行く。テディは自分の生涯に悲観して、その場に泣き崩れる(3枚目の写真)。

翌朝、テディの母が保安官と一緒にバックの家にやって来る。ドアを開けたバックは、「お早う、保安官。家に来るには早過ぎないか」と、威張り腐った態度で応対する(1枚目の写真)。「お早う、スタンパーさん。息子さんは気の毒だったな。ロジャースさんを連れてきた。彼女は、あんたがやって来て、息子さんを意志に反して連れて行ったと話した。それは本当か?」。「自分で訊いてみたらどうだね?」。バックは、そう言うと、横に隠しておいたテディを引っ張り出して自分の前に立たせる(左目の周りが、殴られて黒くなっている)。息子の姿を見た母は、「何か起きたの?」と駆け寄ろうとして、保安官に止められる(2枚目の写真)。保安官は、「坊や、ここで何が起きているのか話してくれないか? 君のママがとても心配しておられる」と訊く。テディは黙っている。「話すのが、怖いのか? 顔をどうした?」。ここで、母が、「テディ、行きましょ」と声をかける。「彼には、もう傷付けさせないわ」(3枚目の写真)。保安官も、「なあ、バック、あんたが何を考えてるのか分からんが、その子はあんたのものじゃない」。ここで、初めてテディが口を開く。「僕、トラックから落ちたんだ」〔目の傷の嘘の説明〕「僕は ここにいたい。ここにはウィリーがいた。僕は一緒に帰りたくない」。バック:「今、聞いたよな。ここにいたいそうだ」。保安官:「坊や、なぜ家に帰りたくないんだ?」。テディ:「ここが僕の家だ。女に囲まれていたくない。僕は男と一緒に暮らしたい。もし、連れ帰っても、逃げ出すだけ」。これを聞いた保安官は、「数日待ちましょう」と、母を車まで連れて行く。母は強く抵抗するが、テディの反対の意志の表明があまりに強かったため、それが脅迫によるものだと見極められなかった保安官は、母の必死の抵抗を抑えて(4枚目の写真)、パトカーに押し込む。

映画では、その後、ごく短いカットで、1年後(1枚目の写真)、2年後(2枚目の写真)、3年後(3枚目の写真)、4年後(4枚目の写真)のテディが映される。13歳のテディは17歳になっている。

夜、テディが梱(こり)の中に隠してあるウィリーの “逃走ビン” にコインを数個入れていると(1枚目の写真、矢印)、そこにいきなりバックが入ってくる。「そこで、何してる?」。テディは急いでビンを隠すが、見られてしまった。「俺から盗んでるのか?」。「いいえ。ウィリーが何年も前に見つけたんです」。それを聞いた途端、バックは、テディにつかみかかり、「俺の坊主の話を出すんじゃない! 分かっとるのか?! お前が殺さなかったら、いい男〔one hell of a man〕になってただろうに! 俺から盗むとどうなるか教えてやる!」と怒鳴ると、ベルトを取り出し、テディを叩き始める。しかし、今夜のテディは今までと違い、途中で、バックの手を止めるとベルトを奪って捨て、頬を殴る。バックも殴り返すが、アル中の中年男よりは17歳の青年の方が強く、地面に這いつくばる。「ウィリー助けてくれ」と言うバックに向かって、テディは 「ウィリーを呼ぶな! 何一つかまわなかったくせに!」と蔑む。そして、さらに、「ウィリーが死んだ時、僕が代った。だが、それも今夜で終わりだ。お前なんかに二度と殴られないし、僕の家族にも手を出させん」と宣告する。それを聞いた卑劣な男バックは、納屋から出ると、扉に鍵を掛け、納屋の木の壁に灯油(?)をかけ、ライターで火を点ける。火に気付いたテディは、昔逃げた非常用の小さな扉から逃げようとする。バックが、簡単に逃げられないよう、板を一杯打ち付けたため、テディは大型の両口ハンマーで板を叩き割る(3枚目の写真、矢印はハンマー、全体に白いのは煙)。テディは、一旦そこから出るが、逃げるにはお金が必要だと気付き、“逃走ビン” を取りに戻る(4枚目の写真、矢印、全体に赤いのは迫った火)。

テディは、そのまま4年ぶりの自宅まで走って逃げる(1枚目の写真、矢印)。鍵は掛かってなかったので、そのまま中に入り、夜なので寝ているのだと思い、「ママ! 女の子たち! 誰かいる!?」と呼ぶが、見えたのは、白い布をかけた家具(2枚目の写真)。それでも家じゅう探し回るが人が住んでいる気配はない。がっかりしたテディは、その夜は久々のベッドで寝てしまう。朝 起きると、外の井戸に行き、「ありがとうウィリー」と言って、“逃走ビン” を蛇口の下の石の上に落として割り、コインをきれいに洗う(3枚目の写真)。

場面はいきなりメイズビルに(1枚目の写真)。テディは1軒の食料品店に入って行く。テディと同年配の可愛いレジの女性が、「何かお探しですか?」と声をかける。「リンゴ1個とスティック ジャーキー2本で幾ら?」。「4セント〔2021年の0.8ドル/1933年なので映画の冒頭とインフレ率が違う〕必要です」(2枚目の写真)。「固ゆで卵1個」。「あと2セント。全部で6セントですね、ビッグ・スペンダー〔気前よく金を使う人〕」。テディが女性に見とれていて何もしないので、「大丈夫ですか?」と訊かれる。テディはポケットから全財産のコインを出して置く(3枚目の写真)。「こんなに要らないわ。あなたが、お店の半分を買い占めない限り」〔先ほどのビッグ・スペンダーといい、冗談の好きな女性〕。テディは、「それ、全財産です」と正直に言う。そして、そのまま出て行こうとしたので、「お釣り、忘れてます」と指摘される。

その後、テディは、母の行方を聞こうと、公共記録のある建物に行き、階段で偶然出会った男性から情報を得る。①リッジに住んでいた年配の寡婦のロジャース夫人の転送先住所はない、②彼女の夫が死んだ後、彼女の息子が他の少年を殺し、逃げ出した。そして、彼女はひどい猩紅熱に罹り、州が彼女の双子の娘を引き取った、というもの。質問の理由を訊かれたテディは、空き家になっている家に興味があると話して誤魔化す。親切な男性は、銀行に行って訊くよう勧める。その建物を出たテディは、黒人の少年が慌てて走ってきたのを捕まえ、どうしたのか訊く。「助けが要るの。ランチで誰もいなくなった工場に2人で忍び込んだら、ポールが歯車に挟まれちゃった。すごく血が出てる」(1枚目の写真)。テディは場所を訊き、そっちに走って行く。少年は、さっきテディが行った店に飛び込み、バールを借りる。テディが製粉所に入って行くと、床に置かれた大きな複数の歯車の横に1人の少年が大量の血を流して気絶している。テディが、歯車に挟まれた脚を外そうとするが動かない。そこに、少年と店の女性が駆け付け、テディがバールで歯車を拡げ、女性に少年の体を引っ張らせる。そこに、ランチに行っていた工員らも駆け付け、テディが怪我をした少年を抱き上げ(2枚目の写真)、工場の車まで運ぶ。工員は2人を医者まで連れて行く。その時の行員の言葉で、怪我をしたのは、工場主の甥だと分かる。テディは、医療台に少年を置く。医師は、看護婦が休みなので、2人のうちどちらかが手伝って欲しいと言うが、運転してきた工員は血を見て気持が悪くなって辞退。テディが手伝うことになる。知らせを聞いた工場主のウェルズが駆け付けた時には、医療は終わっていた。医師は、脚が全快するかは不明だが、ベストは尽したと言った上で、「仕切りの向こうにいる あなたの従業員が手伝ってくれなかったら、甥御さんはペトロ〔キリストの使徒〕と話していたかもしれません。私一人ではできなかった」と話す。そこに、テディが顔を見せ、医師に、「もし、これ以上必要ないのでしたら、僕は出て行きます」と言う。「お名前は?」。「テオドア・ロジャースです」。「素晴らしい仕事〔Hell of a job〕でした、ロジャースさん。その少年は、あなたに命を救われた」。「お役に立てて嬉しいです」。そう、上品に言うと、テディはさっさと出て行く。それを見たウェルズはすぐに後を追う。「ねえ、あなた、ちょっと待って」。「はい?」。「私は、ミスター・ウェルズ、あの工場の持ち主です。あなたは、工場からここまでポールを運んだ人ですか?」。「はい、そうです」。「握手させて下さい」(3枚目の写真)「あなたは、少年の命を救った」。「運んだだけです」。「謙遜しないで。あなたは素晴らしいことをした。仕事を探してますか?」。「はい、そうです」。「明日の早朝、工場で。仕事が待ってるよ。週8ドル〔2021年の166ドル〕でどうかな?」。「素敵です。参ります」。

翌朝、ウェルズはテディに仕事の内容を教える(1枚目の写真)。曰く、火曜と木曜、棚の紙の指示に従い、指定された数の袋を工場のトラックでシャーロッツビルとジャクソンビルに配達する〔架空の地名〕。他の日は、袋に詰めるトウモロコシの粉を作る。テディはさっそく袋をトラックの荷台に運び、運転席に乗る。もちろん免許など持ってない。“あの日” にトラクターを運転したことがあるだけ。運転席で迷っていると、そこが店の前だったので、外で掃除をしていたレジ係の女性がやって来て、「大丈夫なの、ビッグ・スペンダー?」と訊く。勘の鋭い女性は、テディが運転の仕方を知らないと察し、助手席に乗り込む。そして、エンジンのかけ方から教える。車がニュートラルの状態にないといけないことや、左にクラッチとブレーキ、右にアクセルのペダルがあることも教える(2枚目の写真)。車は何とか動き出し、女性は、練習に相応しい場所に向かわせる。そこは、平坦な野原。女性は、「上手ね」と褒め(3枚目の写真)、「最初の運転にしては悪くない」と付け加える。テディは 「2回目だよ」と言い、「あなたって、変わった人ね」と言われてしまう。

テディがシャーロッツビルの服飾店に袋を届けに行った時、店の中年の女性店員は、「あなたが新しい運転手ね」と事務的に言うが(1枚目の写真)、店主の若い娘は、「あなたね。ほんとのヒーローだわ」と笑顔で歓迎し、「いいニュースは、山火事のように広がるの」と説明する。そんなことに全く興味のない店員は、「10袋でしたね?」と訊く。「ええ」。店員は袋を置く場所を指示する。そこに、店のドアが開き、双子の娘を連れた夫婦が入って来る(2枚目の写真)。双子を見たテディは、2人が自分の妹だとすぐに気付き、じっと見ている(3枚目の写真)。一家が出て行くと、テディは店員に、「今ここにいた家族…」と話しかける、店員は 「マッコール牧師と女の子たち?」と訊く。「ええ。あの人たち、ずっとここに住んでいましたか?」。「そうだけど、女の子たちは別で、ママさんがひどい病気になり、世話ができなくなった。牧師と奥さんは子供に恵まれてなかったので、引き取ったのよ。あなた、どこから来たの? メイズビルから? それともシャーロッツビル?」。「どちらでもない。リッジです」。店主の娘が、「1人で出て来るにしては、えらく若いわね」と言うと、テディは、「もうすぐ18歳です」と答える〔ところで、この不愛想な眼鏡のおばさんは、実はテディの母。眼鏡をはめていても、4年しか会ってないないだけなので、声を聞けば分るはず。育ちの早い双子には気付き、顔のほとんど変わっていない中年の母が分からないなんてことがあり得るのだろうか? 一方の母は、最初、外観が大きく変わったテディを見ても分からなかったであろうが、①リッジ、②年齢、③1人で出て来た、の3点でテディだと気付いたはず〕

場面は、メイズビルの食料品店。店の裏から、レジ係の父が現われる。「エリザベス」。「今日は、パパ」。2人は仲良くキスする。「なぜまた、午後になって町に来たの?」と言いながら、エリザベスは父に飲み物を渡す。父は、「昨日、若い男と車に乗って町から出たそうだな」と訊く。「私をスパイしてるの?」。「スパイとは ひどい言葉だな」。「彼は、よそ者じゃなく、ヒーローなのよ。工場で ポール・ウェルズを助けた男の話、聞いてるでしょ。だから、怖い人じゃないの」。「彼について、何か知ってる?」。エリザベスが答えないと、父は、「それが、彼をよそ者にしてるんだ」(1枚目の写真)。そこに、何と、ザックが入ってくる。「何かお探しですか?」。「何か飲み物あるかね?」。「甘い紅茶ならありますが」。「そいつは、俺が買いたいと思ってるもんじゃないな〔I'm in the market for〕、お嬢さん」。「禁酒法〔1920-33年〕があります。私たちは法を順守します」。「じゃあ、砂糖と、トウモロコシの粉をもらおうか」〔トウモロコシの粉を蒸留してウィスキーを密造するつもり(砂糖も加える)〕。これを聞いたエリザベスの父は、「もう出て行ってくれ」と言う。「あんた誰だ?」。「あんたには何も売らん」。「それが、常連客に対する態度か? 敬意を見せろ」。バックはそう言うと、今度はエリザベスににやけた顔を見せ、「お嬢さん、1つか2つ教えてやろうか?」と言い、それを聞いたエリザベスの父は、バックの胸ぐらをつかみ店の出口に向かい、外に出すと突き飛ばす。それを、ちょうどシャーロッツビルから戻って来たテディが見ている(2枚目の写真)。テディは、見つからないよう、すぐに顔を背ける。一方、エリザベスは、テディを見て、トラックに笑顔で駆け寄る。「今日は、ビッグ・スペンダー」。「やあ、お嬢さん〔Howdy, Ma'am〕」。「それだけしか言わないの? 町じゃ、あなたの話題でもちきりなのに〔You are quite the talk〕。リアルライフヒーロー。すごく謙虚な」。「よくあることですよ〔All in a day's work〕」。「うかつだった〔I spoke too soon〕」(3枚目の写真)「町長さんを待たせちゃ良くないわ」。「ウェルズさんは町長さんですか?」。「ヒーローはどこから?」。「この辺です」。「謎って好きだわ。今を時めくヒーローの名前は?」。「僕はテオドア・ロジャースです」。「メイズビルへようこそ」。

テディのてきぱきした仕事ぶりに感心したウェルズは、他の工員が帰った後、「腹、空いとるか?」と訊く。「はい、ペコペコです」。「じゃあ、一緒に晩飯を食べに行こう。町のレストランで食べたことは?」。「いいえ。でも、今は手許不如意なので。また別の時にでも?」。「ナンセンス。わしのおごりだ。デラは、ミシシッピ川のこっち側で最高のビスケットとフライド・アップルの作り手だ」。レストランのテーブルに座ると、「わしには息子がおらん。だが、もしいたら、君のような性格であって欲しいと思っとる」と、最上級の褒め言葉をかける。「ありがとうございます」。そこに、デラがコーヒーを持ってきて(1枚目の写真)、2人は食事を始める。テディは、「ウェルズさん、質問してもいいですか?」と訊く。「いいとも、何が知りたいんだね?」。テディは、食料品店の女性の名前を訊き、彼女がああ、スモールウッドの娘だと教えられる。テディにとって、スモールウッドという名は、ウィリーが死んだトラクターのあった農場なので、「ベリー農場の?」と訊く。「ベリー農場、あの店、それに、馬の牧場も。いい家族だ」。そして、「彼女のファーストネームは何ですか?」。「エリザベス。一人娘だ。兄弟は3人だがな」。これで、ウェルズは、テディがエリザベスに気があることを知る〔テディを100%気に入っているので、全面的に協力しようと考える〕。食事が終わってレストランから出ると、ウェルズは、雇い始めたこの週の給料を前払いしてくれる。「店で何か買う時に要るかもしれんだろ」(2枚目の写真)〔店は、当然、エリザベスの店〕。テディは、思わず、「ウェルズさん、どうして僕に親切にして下さるのですか?」と訊く。「君が好きだ。わしに感銘を与えた」。そして、店の方をチラと見ると、「楽しい夕べを」と言って去って行く。テディが、店の向かいに側に停めてあるトラックまで行くと、それを見たエリザベスが寄ってきて、「こんな風に会うの 止めなきゃ」と言う。「今晩は、ミス・エリザベス・スモールウッド」。「まあ、探偵さん。とうとう突きとめたのね」(3枚目の写真)。雨が降り出し、エリザベスは、「運転のレッスン、もう1回して欲しい?」と誘い水をかけ、テディも、「それは素敵ですね」と、さっそくトラックに乗ってもらう。「どこに行きたいですか?」。「女性に、どこに行きたいなんて訊くのは、ロマンティックじゃないわね。行ったことのない場所に連れて行って」。

テディは湖まで連れて行く。この辺りは雨が降らなかったのか、2人は地面に並んで腰を下ろす。テディは、子供の頃、一番の親友と一緒にここで遊んでいたと打ち明ける。そして、「ちょうどこの場所で、彼に洗礼を施したんです」とも。「あなたって、変わった子だったのね、ロジャースさん。今、何がしたいの? 洗礼と救命の他に?」。テディは、何が好きかと訊かれ、絵を描くことと答える。「ミケランジェロのように?」。しかし、監禁されて 学校にも行かせてもらえなかったテディには、その名前は通じない。「マイケル、何て?」と訊き返す。「テオドア・ロジャース、ミケランジェロが誰なのか知らないの?」。「ええ、アンジェロ家の誰も よく知りません」。「彼、システィーナ礼拝堂を描いたの。『アダムの創造』よ。ダビデ像も」。テディの反応はゼロ。「何とかしないと」。そして、「ご両親は?」と訊く。「亡くなりました」。「それは残念ね。一番のお友だちは?」。テディは首を横に振る。「ロジャースさん、あなたは幾つか深刻な心の痛みを抱えてらっしゃるのね。あなたの世界は、いつもこんなに悲しいの?」。「これまでは、そうでした」。「じゃあ、それも何とかしないと」。そう言うと、エリザベスは立ち上がり、服を脱ぎ始める。1933年の時点では大胆な行動なので、テディは驚いて見ている。エリザベスは、下着だけになると、湖に入って行く。そして、胸まで水に浸かる場所まで来ると、「私に洗礼を」と要求する。「私がこれまでしてきたことと、これからすることの罪を洗い流して」。テディは、下着だけになると、湖に入って行き、エリザベスに洗礼を施す(1枚目の写真)。洗礼の後、エリザベスはテディを誘うような行動に出るが、テディは、「あなたを家に帰さないと」と言い、すぐに湖から出る。エリザベスは、馬の牧場の近くにある自宅までトラックを誘導する。そして、家に入って行く私道には入らないよう指示する。エリザベスは車を降りる時、テオドアは言いにくいので、テオまたはテディと呼ぶと言い、テディが、「母は、テディと呼んでました」と答えると、「テオにするわ」と笑顔を見せる。エリザベスが家に入って行くと、父が、「とても遅いな」と苦情を言う。「クソ、パパだ」と独り言ちると、「もうスパイしないで」と文句を言う。最初の言葉を聞いていた父は、「クソ〔Damn it〕」という言葉を使ったことを注意した後で、「お前は、まだレディだ。少なくとも、そう願っとる」と言う。「『そう願っとる』って、何が言いたいの?」。「若い女性が、異性と遊び歩くのは不適切な行動だ」。「言葉に注意して」。「夜遅くに、若い男性と… 私に、小生意気な態度はやめるんだ。何で濡れてる?」。「パパ、心配することは何もないの。私のアタックにもかかわらず、彼は完璧な紳士だったわ」(2枚目の写真)「だから、パパは、あなたの潔白な娘が、まだレディであることを知って、安らかに眠れるわ」。翌朝、店にエリザベスを訪ねたテディは、「昨夜はごめんなさい。できれば、二度目のチャンスをもらえませんか」と言った後、「エリザベスは言いにくいので、ベスと呼ぶから」と言って店を出る。そして、映画は、バックグラウンドの歌とともに、2人が野原や花畑で楽しく過ごす様子を映す。そして何度も交わされるキス(3枚目の写真)。二人はもう恋人同士だ。

テディがメイズビルに来てから約3ヶ月後。工場でウェルズは、テディを前に、「遅刻なし、いつも強力に〔strong as an ox〕手伝ってくれました。君は この工場の資産です」と絶賛する。「ありがとうございます。失礼なことは言いたくありませんが、待たせている人があります」。それを聞いたウェルズは一席ぶつ。「冷たくて新鮮なアイスティーが待ってるんだろ? テオ、紅茶は素晴らしい物だ。時に応じて冷たかったり、熱かったり。だが、長く放置することはよくない」(1枚目の写真)「氷は溶け、熱さがなくなる。もし君が新鮮な紅茶を楽しみたいんなら、必要な方策を講じないとな。日和見的態度じゃいかん〔don't be pussyfooting around〕」。そして、「私は、教会礼拝の後で、女性の手を握ったことがない。子供をベッドで寝かせ付けたこともな。私が犯したのと同じ過ちをするんじゃないぞ。機会を逃すな」。テディがトラックのところに戻ると、ベスが、冷たい紅茶を持ってやって来る。そして、贈り物としてミケランジェロの作品集の本を渡す〔3ヶ月も経ってから渡すのは遅いような…〕。テオは、「今夜、あなたを ある場所に連れて行く積りです」と話す。「また、湖で泳ぐのかしら?」。「違います、6時ではいかがです?」。そこに、ロクデナシのバックがボロ車に乗ってやってくる。それを見たテディは、バックに見つからないよう、いきなりベスにキスをして顔を隠す。顔を離したベスは、「テオ、人前でこんなことするなんて」と動揺する。「ごめん。つい我慢できなくて。時々、どうしていいか分からなくなるから」。ベスは、笑顔でそれに応え(2枚目の写真)、店に戻って行く。ベスが店のドアを閉じて、嬉しさ一杯の顔で微笑み、中に入って行くと、父の声が響く。「店の外で、あんなに見せびらかすとはな〔quite the display〕」。「何が言いたいの?」。「お前は、しばらく前からあの青年と付き合ってる」。「名前があるわ」。「そろそろ、連れてくる時だと思うが」。「どうして? 一人娘にはいまいちだと言うため?」。「それは、不公平だ」。「何が公平なの、パパ? 両腕を広げて 「我らが家族にようこそ」と歓迎するつもりなの?」。「まず、チャンスをくれなきゃ。お前がそれほど気に掛けてるなら、悪い人間じゃない。彼にチャンスを与えよう」(3枚目の写真)。

テディがベスを連れて行った先は、子供の時に住んでいた家。テディはベスの目を隠して食堂まで連れて行き、そこで手を外す。ベスは、きれいに用意されたテーブルに感嘆する〔皿の上には布がかけてあり、グリーンピースの皿だけが見える〕。テディが皿の布をさっと取ると、ベスはびっくり(1枚目の写真)〔料理は一切映らない〕。「これ、あなたが作ったの?」。「そうだよ」。「信じられないわ」。そして、2つ目の皿の布も外す。「これ、デラから仕入れたの?」。「ううん、みんな僕が」。「きれいな色彩ね」。「空腹だといいんだけど。まだ温かいはず」。「完璧ね」。「まだ、食べてないでしょ?」。「食べなくても分かる。きれいな家を持ってらっしゃるのね」。「少し掃除したから」。食事が済んだあと、ベスは、「美味しかったわ。どこで料理を学んだの?」と訊く。「昔、仕えていた男のために料理もしてた」。これがテディの悲しい記憶を呼び覚ましてしまう。急に態度が変わったテディに、ベスは、「何があったのか教えてもらえる?」と訊く。「彼は、いい男じゃなかった。悪そのもの。恐ろしかった」。そして、どんな男か訊かれたテディは、町に時々来る酔っ払いだと教える。そして、「彼は、農場で働らいていた僕を傷付けた」とも。ベスは、そんなテディを慰める。別の日。テディが家に行くと、中年の女性がいる。「お困りですか?」「奥さん、どこかで会いました?」と声をかける。「あなたを知ってるわ」。「シャーロッツビルの人? 服飾店の」。「そんなとこね」。そして、「テディ」と言う(2枚目の写真)。「それは、家族が僕を呼ぶ時の名です」。「そうよ。覚えてないの?」。そう言うと、女性は眼鏡を外す。「気にしないで。久し振りだし、子供の記憶は薄れるものだから」。これで、ようやく、テディは、相手が母である可能性に思い当たり、「ママ?」と訊く〔何度も書くが、僅か4年で、こんな完全に忘れるものだろうか?〕。食堂のテーブルに座った2人。テディは、「いつから知ってるの?」と訊く。「1ヶ月ほど前ね。ウェルズさんが、あなたの母と妹たちについて話して下さった。そして、話が、お父さんと汽車まで来た時、確信に変わったの」。「それでも、僕を避けたの?」。「あなたが、それを望んだから。4年半前、あなたは、私とはいたくない、男と一緒に暮らしたいと言ったでしょ」。「ママ、僕は、あなたを守ってたんだ」。「あなたは、私が死んだとみんなに言ったわね」。「ママは亡くなり、妹たちは養子にされたと聞いたから」。「じゃあ、私を憎んでないの?」。「まさか、ママ」。「僕が逃げ出した時、ここまで探しに来たんだ」。「彼、あなたを傷付けた?」。「知らない方がいいと思うよ。僕は、生きて、ここにいるんだ」。母は、ウェルズから、①ヒーローの話と、②ベスのことも聞いたと話し、首にかけていた結婚指輪をテディに渡し、時が来たら渡すよう頼む(3枚目の写真、矢印は指輪)。テディは、母に、この家に住むよう頼む。

テディは、そのままメイズビルのベスの店に向かう。母との会話が長くなったので到着が遅れ、ベスからは、「こんなに帰りが遅くなったの初めて」と言われる。「病気じゃないかと心配したわ」と抱き着く。テオが、「聞いて。あなたに話さなくてはならないことがある」と言い出すと〔恐らく、母のこと〕、そこに、ウェルズがやってきて、懐中時計を見て、「やっと来た。君の時間厳守が自慢の種だったんだぞ」と咎めるように言う。テディが、「ウェルズさん、ごめんなさい」と言って、手を差し出した時、なぜか手に持っていた母の指輪が地面に落ちる(1枚目の写真、矢印)。それを見たウェルズは、先走りの誤解で、「こりゃ、また!」と大喜び。「これって、もしかして〔Is that what I think it is〕?」。ベスは、「テオ、あなた、話すことがあるって言ったわよね?」。テディは指輪を拾い、「こんなつもりじゃなかったんだけど」と弁解する。しかし、ウェルズは、「ほら、何を待ってるんだ? 紅茶が冷めちゃうぞ」とアドバイス。それを受けて、テディは 「ミス・エリザベス・スモールウッド、一緒になっていただけませんか〔would you do me the honor〕?」と尋ねる(3枚目の写真)。「はい、テオドア・ロジャース。あなたの結婚の申し込みを受け入れます」。テディは、指輪をベスの指にはめる。ウェルズは、「こりゃ目出度い! 今夜、ダンスホールに親類一同を集めないと。デラにご馳走を作ってもらう。音楽とダンスで、君たちの発表を盛大に祝わないと」と浮かれる。

そして、その夜のダンスパーティ。ウェルズはスモールウッドに、「あんたも、娘むこに立派な若者が持てるな」と羨ましがる。それに対し、スモールウッドは、「さあ、どうかなクラレンス。彼については 何も知らないからな」と、さほど嬉しそうでもない(1枚目の写真)。「これ以上 何が必要だ? 彼はヒーローで、優秀な働き手で、あんたの娘さんに首っ丈だ〔head over heels〕」。「彼の家族について、何か知らないかね? どこから来た? ひょっとしたら 重罪犯の家族かもしれん」。「あの若者は人格者〔has character〕だ。保証する」。「ほんとに?」。「わしにとって、息子みたいなもんだ」。テディとベスは、町の名士に囲まれて楽しそうに踊り続ける(2枚目の写真)。音楽が終わり、一組のカップルが帰る。女性が1人でいると、そこにバックが寄って行き、「おしゃれして、みんなどこに行くんだ?」と訊く。こんな不良親爺に答えなくてもいいのに、「スモールウッドさんのお嬢さんの婚約を祝ってたの」と答える。「あんたは、1人で立って目立つことに決めたんか?」と言って、女性の顔をつかむ。すぐに、離れていた彼氏が戻ってきて、「構うんじゃない」と警告する。そして、こんな不良親爺に、「あんたがパーティに行きたいなら、中に行けよ」と、余分なことを言う。「婚約パーティだな? うなるほど金を持つことになる幸運野郎は誰なんだ?」。先ほど頬までつかまれたのに、なぜか、女性は、「彼はここの人じゃないから、あんたきっと知らないわ。私たちの誰も。テオドア・ロジャースって名前なの」と教える(3枚目の写真)〔本来なら、こんな男に、教えることなどあり得ないが、そうしないと映画が進まない〕

ウェルズは、新郎について祝辞を述べる。「テオドア・ロジャース、君は、わしが持てなかった息子のようなものだ。婚約のお祝いとして、工場の主任になってもらう。受け入れるかね?」。「はい、ありがとうございます」。そして、一斉に拍手が起きる(1枚目の写真)。そこに、手をパンパンと大きく叩きながら、お邪魔虫のバックが入ってくる。ウェルズは、如何にも不快そうに、「お前さん、誰なんだ?」と訊く。バックは、テディに、「お前は死んだはずだ」と言う。「いいかね、お前さんが誰で、どこから来たかは知らんが、ゴタゴタは迷惑だ。とっとと出て行きたまえ」。「あんんたは、俺の名前を知らん。ならなぜ新郎にここに来させて訊かん? そうだろ、テディ?」。ベスは、心配して、「あの人、何言ってるの、テオ?」とテディに尋ねる。それを聞いたバックは、「テオ? 何だそれは? 奴は、みんなを騙してる。あんたは、誰と結婚しようとしてるかも知らん。驚いたな〔Don't that beat all〕。お嬢さん。あんたは殺人者の隣に立ってるんだ」(2枚目の写真)「奴に訊いてみな。誰かを殺したことがあるかって」。「あの人、何言ってるの? ほんとなの?」。テディはベスを振り返ると、「ちゃんと説明できる。事故だった」と言う。しかし、聞く耳をもたないベスは、「嘘ついたのね」と責める(3枚目の写真)。そして、パーティ会場から飛び出て行く。テディは、ウェルズ向かって、「ウェルズさん、誓います。僕はまだ子供でした。そして、遊んでいた」と言い始める。ウェルズは、「そんなこと心配しとる場合じゃない。お行き」と、ベスの後を追わせる。その後ろ姿に向かって、バックは、「逃げるな、臆病もん! お前は 俺の坊主を殺した時みたいに、逃げるのか!」と叫ぶ。そして、会場の全員に向かって、「俺のウィリーは、牧場中を引きずり回されて〔drug all across that farm〕、手足をバラバラにされたんだ!」と言い、テディが出て行った方を向くと、「貴様の手でな!!」と絶叫する。

ところが、ここで反撃に出たのが、これまで懐疑派だったスモールウッド。バックに向かって、「それは真実じゃない」と言い、それを聞いたバックは振り返る。「あんた、バック・スタンパーなんだろ? 私の父は その場にいた。2人の少年は、確かにやってはならないことをした。だが、あれは事故だった。だから、少年が起訴されることはなかった」(1枚目の写真)「2人は、トラクターに乗る前、あんたの銃で遊んでいた。あんたが もっといい父親だったら、あんたの息子は今でも生きていただろう。彼は、あんたの息子を一人で死なせるようなこはしなかった」。それを聞いたウェルズは、「お前さんは、ここじゃ歓迎されん。わしらから追い出される前に、メイズビルからとっとと消えろ!」と最後通牒を突き付ける(2枚目の写真)。思わぬ展開に、恥をかいたバックは、黙って出て行く(3枚目の写真)。

一方、テディは、「他の人を殺したような人はもちろん、嘘つきと結婚などできないわ」と強く反撥するベスに対し、「あなたが僕を一瞬でも愛していたなら、説明させてください。すべてを話します」と言い、手を差し出す。テディの手を取ったベスを、彼は自分の家まで連れて行く。そこで、テディは、“あの日” 起きたことを詳しく話す。くり返しになるので、最後だけ引用すると、「ウィリーが倒れ、僕はトラクターを停められなかった」(1枚目の写真)。せっかく話を聞いてもらえてうまくいきそうになった時に、テディの母が玄関から出て来る。これが、ベスの不審を煽る。「あなた、一体誰?」。母は、「彼が話したことは、すべて事実です」と言うが、これは助けにならなかった。「ここで、何が起きてるの?」。「ベス、これは僕の母だ」。「まあ、すごい。また嘘ね。次は何なの? 死んだはずのお父さんが、鶏小屋から歩いて出て来るの?」〔かつて、ベスに、「ご両親は?」と訊かれ、テディは 「亡くなりました」と答えていた〕。これに対し、テディは、「僕は数ヶ月前に逃げ出しました」と打ち明ける。「誰から? お母さんから?」。「悪魔そのものから。今日、町にいた男は、ウィリーの父親でした。そして、ウィリーが死んだ時、僕に代りになれと言いました。でないと、僕を殺すか、家族を殺すと」(2枚目の写真)「僕は、悪魔の家で4年間生き延びました。毎日、怒鳴られ、殴られ、虐められて。そして、数ヶ月前、妹たちとママを探しに行きましたが、家は空でした。そして、町に行き、あなたに会いました」。それだけ言うと、テディは上半身裸になり、ベルトで何度も叩かれた背中の傷跡を見せる。それを見たベスは、背中に触り、「みんなを救ために、こんなことまで」と、こころからテディに同情する(3枚目の写真)。

そこに現れたのが、人非人のバック(1枚目の写真、矢印は銃)。「お前は、俺が納屋を失う前に逃げた」と言いがかりをつける。その、あまりに非常識な言い方に、テディは、「僕を殺そうとした」と言うが、誰からも相手にされなくなってプッツンしたバックは、「取引はパー。元に戻った」と言う。テディは、「借りはもう返した」と言うが、「それは取引じゃない。目には目、命には命だ」。頭に来たベスは、「私のパパなら、あんたなんか…」と言い出すが、先ほどベスの父に懲らしめられたバックは、「あんたのパパは、今すぐ助けることはできん」と、即断即決を要求する。ここで、母が、「それなら私を連れて行きなさい。私でよければ、あなたと一緒に行くわ」と、名乗りを上げる(2枚目の写真)。「お前は、ママに救われたな」。テディ:「殺してやる!」。母は、「テディ!」と止め、バックは、銃をテディに向ける。母は、テディに、「あなたを愛してる。私と娘たちのためにしてくれたことに、少しでも報いさせて」と言った後で、「その車に彼女を乗せて、今すぐ立ち去りなさい!」と、強く命じる。そして、2人は言われた通り、トラックに乗って家を離れる。気違いと2人だけになった母は、「肌寒いかも」と言い、「ショールを取ってきてもいいかしら?」と言い、家の中に入って行く。その後ろ姿に向かって、バックは 「皮肉だと思わんか? 結局、あんたと一緒になっちまった」と声をかける(3枚目の写真)。

テディがトラックを飛ばしていると、背後で銃声が聞こえる。そこで急ブレーキをかける(1枚目の写真)。「あれ、聞こえた?」。「銃声ね。戻って」。テディはトラックをUターンさせる。すると、家の前でバックがうつ伏せに倒れて死んでいて、その脇で母が泣いていた(2枚目の写真、矢印は銃)。「ママ、大丈夫?」。「訳が分からないの。テオ、どうしたらいいの?」。テディは、ベスに、母を安全な場所に連れて行くよう頼み、母をトラックに乗せる。その際、テディは、母のスカートに突っ込んであった銃を素早く抜き取り、ベスに気付かれないよう 後ろ手に持つ(3枚目の写真、矢印)。ベスが、「テオ、一緒に来ないの?」と訊くと、保安官が来るまで死体の所にいると答える。

ここで、冒頭のナレーションの声が入る。「山には秘密があり、時には、それが嘘で覆われている。私は、あの夜、ママがナック・スタンパーを殺したことを知っている。それは、今日まで守ってきた秘密だ。しかし、数年後になって、ママは真実を話してくれた」。ここから先のシーンが観ていて理解を超えている。時間は、テディが生まれる前。顔から見て、テディの母がお産の苦しみに耐え、分娩を手伝っているのは、助産婦ではなく何とバック。ということは、一度はテディの母はバックの妻だったことになる。冒頭の「彼のパパは私を嫌っていたが、理由は知る由もなかった。私とウィリーが生まれて以来、そこには何らかの確執があった」や、2節前のバックの言葉 「皮肉だと思わんか? 結局、あんたと一緒になっちまった」は、このことを言っているのかもしれない。この直後、床で遊んでいる幼時が映る(2枚目の写真)。最大の謎。これは一体誰なのだろう? 取り出した赤ちゃんを抱きながら、バックは 嬉しそうに、「男の子。ウィリアム」と言う(3枚目の写真)。ウィリーは、テディの母の子だった。以前の言葉では、ウィリーが死んだ時、テディの母は、「私も彼を愛してた」と言った。これも、この状況を補強している。しかし、この直後、お産が終わった母は、「彼は、ここにはいられない」と言い、「真実は常にそこにあった」というナレーションが重なる。そして、母はさらに、「ジョンはすぐに」と言い〔ジョンは、機関車から落ちて死んだ母の死んだ夫〕、それを聞いたバックが嫌な顔をする。「私たちは、見たいものだけを見ていたんだと思う」。そして、ウィリーとテディのシーン。そこで、ウィリーが、「さあな。酔っ払ってるからだろ。最初は戦争、それからママが出てった。君は パパがいなくてラッキーだ」と言った過去のシーンが挿入される。その言葉と被るように、赤ちゃんを抱いたバックの前を、1人の女性が、声もかけずに家を出て行く(4枚目の写真)。赤ちゃんの横には、半分飲んだウィスキーが置いてあるので、この頃には、不満が募ってアル中になっているらしい。ただ、問題はバックを見捨てて出て行く女性の顔が、テディの母のようには見えない事。一体、どうなっているのだろう。その次のシーンでは、テディの両親が、墓の前で祈っている(5枚目の写真)。一体誰の墓なのだろう? テディがウィリーに、「ママは、夫と赤ちゃんを亡くした。だから、僕を大目に見てくれるだろう」という言葉があった。この “赤ちゃん” が、この墓なのだろう。この “赤ちゃん” とテディはどちらが年上なのだろう? ひょっとして、2枚目の写真の幼児を指しているのだろうか? いずれにせよ、テディとウィリーは、同じ母から生まれた異父兄弟だったようだ。だから、血盟の友になる必要はなかった。これらの謎は、映画が終わっても分からず仕舞い。大いに不満が残る。

最後のシーンは、実際にあったこと。テディとベスが出かけた後、ショールを取りにいった母は、銃を手にとると〔バックの銃とは違う〕、スカートの裏に押し込む。そして、バックがトラックのドアを開け、「お前から話すか、俺が言うべきか? 彼が殺したのは、自分の兄弟だと」と言った時(1枚目の写真)、母は、銃を取り出し、バックのこめかみ目がけて撃つ(2枚目の写真)。映画は、その直後、ウィリーの墓の前で佇むテディを映す。「安らかに眠れ、ウィリー」。保安官はバックの死をどう考えたのだろう〔こめかみを撃たれ、トラックのその位置に血が飛び散っていので、意図的に殺されたことは明らか〕? テディは保安官にどう話し、テディの母はどうなったのだろう? そして、テディはベスと無事結婚できたのだろうか? ストーリーの展開は予測不可能で衝撃的だが、分からないことが多過ぎる。

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